礼と文化 (コラム10)

華道専慶流いけばな・西阪慶眞




きささげ 専慶流
花材/きささげ、ストレチヤ、クジャクソウ、鶏頭
はな/西阪慶眞作
花器/慶眞デザイン現代花器

 私達の生活には、冠婚葬祭を軸にした「儀式」「作法」を暮らしの基盤としてきた部分が強かったように思われます。ならわし、しきたりも同様で、平たく言えば「民意を反映させた暮らしのルール」ですが、これが結構、高い文化意識の構築に貢献してきたようなのです。
 人と人の結びつきを一層深くし、真心をより端的に美しく表現するために工夫された儀式、しきたり。
 人生の儀式を列記すると沢山あります。帯祝い、出産祝い、食べ初め、初節句、七五三、入学、卒業、成人式、就職、長寿祝い。
 結納、荷出しなどいわゆる結婚にまつわる儀式の数々や、葬儀、法要など。それに加えて、年中行事もある。正月の祝い、節句の祝い、中元、歳暮のご挨拶など。これらを「冠婚葬祭」とし、人生の儀礼として大切にしてきたのです。先方に失礼がないよう、或いは無礼と判断されないためにもこれらは教養の一部であり、社会の仲間入りの条件でもあったのです。
 ところが近年「虚礼廃止」など合理化が叫ばれ、日毎に簡略化が進んでいます。儀礼は古い、めんどう、堅苦しいなど多くの理由が挙げられますが、礼に託された民衆の心、祈り、双方の心のありようなど、正しい伝承を欠いたことが、現代の作法軽視を招いた要因なのでしょう。
 今では熨斗(のし)、水引、或いは紙折の礼法の約束事や意味も稀薄になり、形だけが残っているのが現状です。ややもすると「今の若い者は」と特別視しがちですが、礼の心、熨斗や水引をする理由が親から子供へ正しく伝えられていないからに他ならないのではないでしょうか。
 私達のいけばなも、伝統花の正しい伝承こそ、明日への新しい志向につなげるのです。そこには私達民族が暮らしてきた日々の生活に秘められた様々な心が、植物の対話が隠されているのです。

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