すべてのスタート「挨拶」(コラム5)

華道専慶流いけばな・西阪慶眞



山紅葉

花材/山もみじ、ジャーマンアイリス
はな/西阪慶眞作

『おはよう』。このひと言から、自分一人ではない空間の一日が始まります。      
 たったひと言のこの言葉の行き来が、人との自然な流れを作り出していきます。そうなのです、人と人との交わりには、まず始めに『あいさつ』がなければいけないのです。そして交わされた『あいさつ』の状況によって互いの心は様々な思いに出会います。ほんのひと言の『あいさつ』が、時に心を温かく、穏やかに、優しく…また思わぬエネルギーへと置き換えられてゆきます。
 反面 交わされるはずの『あいさつ』が、一方通行に終ってしまった時の言葉にならない思いは、相手の人との交わりの深さに関係なく、一日を暗くしてしまうと云った経験は誰しもあるのではありませんか。
 決して何かを期待して『あいさつ』するのではありません。人として心から自然に口に出るのが通常なのです。余談ですが我が家には大型犬のセットランドシープドッグがいます。おはよう! 行ってくるよ! ただいま!っと声をかけるのが習慣となっているのですが、急ぎの時など私が声をかけるのを忘れて出かけようとすると犬の方から「ワン!」と声をかけてきます。そんな時は「ごめんね、行ってくるね」って云ってやるととても満足な表情をするのです。ちょっとした声をかけることによって安心感や共有する何かを感じとっているのでしょう。
 『あいさつ』に始まる人間関係は、これまでの結びつきをさらに深く、あるいは広くし、また新しい交わりは、限り無い未知の世界への入り口となる可能性を秘めているのです。人と人との交わりが希薄になりがちな現代社会。その原因の一つにこの挨拶の欠如があるのではと思えてなりません。『あいさつ』は人と人を結ぶ大切な役割を果たしてきたのだと思います。「おはようございます」このひと言に自分の心のすべてが秘められているのです。マニュアル通りの「台詞」では我が家の犬は笑顔を返しません。そう、挨拶は私の心を端的に表現しているのです。とくに接客業にたずさわる人の、心からの挨拶は絶対条件でしょう。心のこもらない「台詞」はかえって相手の心を硬直させることを私達は知らなければいけないのです。




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