大地の叫び(コラム9)

華道専慶流いけばな・西阪慶眞



奈良県飛鳥の彼岸花

彼岸花1 専慶流

彼岸花2 専慶流


 秋らしい風が吹き始めると赤く燃える洋に咲く花「ひがんばな」が黄金色の稲穂をバックに一斎に咲きほこります。秋の彼岸(23日前後)にきまって咲くことから名づけられた植物学上の正式名ですが、小さいながらも生命の神秘をまざまざ見せつける植物でもあります。葉が出る前に花茎を出し、十日前後で花を咲かせる。でもめったに結実することはなく、球根の移動で繁殖すると云われています。

 しかし偉大な生命力を誇るこの花にも近年異変が生じ始めたようです。花の色が場所によって随分異なるのです。

 どうやら環境汚染に深い関係があるらしく、排気ガスの度合いに比例してその赤の発色に違いが出ているようなのです。車の往来の激しい国道沿いではややくすんだ深紅色、あるいはにぶい発色であるのに対し、車公害の少ない地でのそれは鮮烈で、透き通る真紅で色の冴えはどこまでも清浄そのもの。これが同じ赤色のひがんばなかと疑うほど。

 私の住む京田辺市(京都府南部近郊)の花も冴えがなくなっているが、それがいつ頃からかは定かでありません。

 長い年月を経て変化しているのでしょう。だからその推移を的確に認知することはむつかしく、大半の人はその微妙な変化に気づくことなく今の色に慣らされていくのでしょう。

 我々が平素接する花材、とくにに枝もの、あるいは古典花に使われてきた素材もその変ぼうには目を見はるものがあるのも事実です。

 このことを「仕方ない」でかたづけるのでなく環境汚染を深刻に受けとめる契機とし、いけばなが浄化運動の起爆剤とならなければいけないのでしょう。そおなのです、わずかな違いも察知する鋭い感性を培ったのはいけばな人だけではありません。私達農耕民族である日本人ならではの自然と共に歩んだ民族の血は今も昔も変わっていないのです。そろそろ民族が手を取り合って、怒っている大地の叫び、木々が涙を枯らしてまで訴えている危機を真剣に捉える時期に直面していることを行動で対処しなければならないのでしょう。

 不吉な花として忌み嫌われる曼珠沙華。この深紅に燃える花の群れも今私達に大声で忠告を訴えてるのです。

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