2000年2月1日発行/専慶流いけばな真樹会主宰・西阪慶眞




花材/石化エニシダ、赤ドラセナ、黄透かし百合

ポイント 奇形の面白い石化エニシダ。ひょうひょうとした表情の中にも力をもたせるよう枝の配分には十分配慮し、胴辺りに強い奇形を配し引き締めます。赤ドラセナは分解し、横枝で地を構成します。百合はあしらい、前控に。




花材/芽吹キウイ、アイルランドポピー

ポイント 2個の装飾グラスを使って「連花」形式にいけたもの。グラスは滑りやすいうえに不安定だが、作例のように素材を互いに絡めるように構成すると安定し、しっかり固定されます。安易な留め具(剣山など)の使用ははガラスの透明感を損なうので避けるのです。また、素材を絡めるといっても空間と動きを生かした軽快な構成がポイントで、何度も試行錯誤の上、重複しない茎の妙を見い出したいものです。花はややマッス扱いとし、アクセント的に全体の引き締め役とします。

 
行動は言葉を超える

 「そこ迄しなくても…」と思うでしょうか。それとも今風に云えば「そんなの勝手、点数稼ぎに過ぎない」とでも思うのかも知れませんが…。
 二千年の一月、新学期を迎えたある高校の学校行事の中で起こった小さな出来事。毎年恒例の、始業前の寒稽古に始まる三学期のスタート。午前六時半の集合に、生徒の大半が夜明け前の月や星の輝く空の下を、始発電車を乗り継いで登校。稽古初日、小雨の中を生徒達は走り出した。雨はやがて本降りに。参加者全員がずぶ濡れになり走り終えて戻ってきた校門の前に、スタートを見送った校長が、傘もささず雨に濡れながら皆の帰りを待つ姿がそこにあった。高齢者であり、昨年入院生活も…。そんな校長が「走っている生徒も、この雨に濡れているのだから…」と。この姿を見たある生徒は、言葉にならない思いで、胸が熱くなったと感想を述べる。
 優しさ、思いやり…現代っ子の彼には無縁の様な言葉。しかし校長のその姿に接した時、抵抗なく、優しさ、思いやりを感じ、やがてその思いが感謝する心に変わっていったと云うのです。三年目、まもなく迎える卒業を前にして「今、始めて校長を身近に、人の心の暖かさを感じ、素直に敬う気持が持てた」と云うのです。過ぎた時間の中で、校長の多くの話を聞き流してきた事を悔やんだと云います。
 古い時代の厳格な態度で教育を目ざす者と「今どきの若者」との間に流れた人間としての一瞬の交流、心のふれあい…。
 今日の我が儘な生活空間の広がりは、共に荒んだ精神環境をも育んでしまった。今さえ良ければ、自分さえ良ければ…的な生き方は、今どきの若者では無く、今を生きる私達がつくり出した事。先の小さな事例は多くを語る言葉よりも、ささいな行動、真心が、人の心に語りかけ、人の心を動かした好例である。
 今、花に向かい合う私達にとって、一輪の花との語らいも、これと同じなのです。一本の花に心を託し挿すその行為には、いける人の姿勢、心が投影されているのです。そして、今、手にする一輪の花は「私の為にある命ある一輪の花」であり、また生けられた花に出会う人の心に穏やかな空間、優しさを…。「何かを感じてもらえる一輪の花」となり得る一輪の花である事を忘れてはいけないのです。

                            華道専慶流 西阪慶眞


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