ようやく寒さも緩み早春の名にふさわしいおだやかな陽だまりが帰って来たようです。長かった冷蔵庫生活から抜け出し外気にたわむれる日もすぐそこに。
三月の花材は先月に続き温室ものが大量に出回る一方、桃をはじめとした花木類が一斉に顔を揃え、店頭に立つとあまりの豊富な種類に戸惑うこともしばしば。今月は花材選択のヒントを紹介しよう。
花木(かぼく)=レンギョウ、サンシュユ、木蓮、コブシ、ボケ、桜、桃、梨…。花木とは花を主に鑑賞する樹木の総称。花が沢山付いていればいいと云うのではなく、いけばなでは空間美をねらうことから、幹に変化のあるしまった素材が要求される。簡単に言えば樹齢の高いものほど枝に味があり、幹に面白い表情が隠されているからである。但し古木になればなるほど花付きが悪くなる傾向にあり、また、折角の蕾が咲かないと云うリスクも付きまとう。そこに素材を見抜く経験した鋭い眼がものを云う事になるが、枝全体の蕾を見渡し、艶とハリがあればまず間違いないだろう。
今期に出回る花木の大半は、自然開花ではなく、温室に入れ開花を促したもの。根付きで入れる場合と、切り花にして入れる場合に分かれるが、問題はこの時の温室管理。下手をすると蕾をささえる茎が異常に伸びたり、花より先に新葉が出てしまう事が多々生じる。前者はひ弱な花になり、後者は花が引き立たず、華やぎが失われた素材となるのです。
洋花=アネモネ、スイトピー、シンビジューム、スイートサルタン、コーワニー、ユーチャリス、オブリザタム…。舌を噛みそうな横文字が並ぶが、洋花はとくに色彩面で捕らえることから流行が生じる。最近は白花が脚光を浴びるが、全般に淡い色を好む傾向にある。カサブランカはその際たるヒット商品だが、この花は大型でむしろ例外的存在で、一般には小形コチョウランなど小さな花に人気が集中する。
日本の草木には生活の匂い、風俗に育まれた固定観念、感情をいだくのに対し、洋花にはそれがなく、すなおに花の美しさそのものにふれることができる。色、形をはじめ五感にうったえる感覚すべてが新鮮で、新しいロマンさえも誘発させる。現代のいけばなで大切なのはこうした固定概念を一切排除した素直な心、目が欠かせないのです。
取り合わせ=枝もの、葉もの、花ものを組み合わせるのがこれまでの常道だが、現代花では飾る環境を考えた思い入れに沿った素材を自由に選べばいいのです。家庭の創作料理同様、創作する意欲こそが「家庭の美」に昇華させるのです。要はどのような雰囲気にいけたいのか主旨をはっきりさせることが何よりも大切なのです。
華道専慶流 西阪慶眞
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