毎日同じ時間に起き、同じコースで出勤し、同じ仕事をして帰りはその逆のコースというのがマンネリズムの典型であろう。趣味の中でも「いけばな」はこの日常性へのカンフル剤であり、なにものにも勝る心のくすりとなり得るのは実証済み。沈みがちな心を活き返らせ、職場でのストレスを癒してくれる。現代人はハイテク機器に囲まれた快適な生活はしていても、歓びある生活という点では疑問も少なくない。
歓びとは心の躍動感であり、快適さは神経が受け止める快・不快感である。エアコンと空気清浄機の備わった部屋は快適である。しかし家族で口論をしたとき、エアコンの効いた同じ部屋でも「歓び」は感じられない。
一輪の花を好みの器に挿す、それも、ベランダや庭で育てたとっておきの花をいけるときの心の高揚は最高の歓びとなり、一日の嫌な事など一瞬の内に浄化される。
私達現代人の生活は、本人の意識の有無を問わず時間的、経済的に絶えず追われているのが現実。豊かな生活とは、経済的な事情もさることながら、心にゆとりある時間、マイペースで過ごせる時間をどれだけ創り出しているかという点にある。そしてこの限られた貴重な時間にどのように働きかけて行くのかは本人次第。
「動き」には行動型と活動型の二つがある。
行動とは、自ら発する動きではなく、他者からの働きかけにしたがって動くことを言う。湯が沸いたからガスの栓を止める、仕事のマニュアル通りに動く…などが行動型と呼ばれ、20世紀の工業化は人間を限りなく行動型にはめ込んだとも云える。
活動型とは、動きの主導権を常に自らが持ち、動くことを言う。かつて女性のたしなみとしていけばなを習うのが嫁入り資格とされた時代があったが、これは暗黙の内に親や周囲の強制に動じた行動型動き。それに対し、現在は本来あるべき姿に立ち戻り、自らの心の叫び、動きで、花に向かう、活動型いけばなの再来である。
豊かさの裏側の過酷な労働で身も心もズタズタに切り裂かれている現代人。長期休暇を取ろうにも取れない職場事情。せめて寸暇の利用で気分一新できる活動型いけばなで心のリフレッシュを心がけていきたいもの。
華道専慶流 西阪慶眞