(ばら・大阪府枚方公園)
近代化の贈り物
私の住む街にもようやく下水設備が整い、昨年末に改造した。都市に住む人には当然のこの施設、近代化の恩恵をしみじみと感じている。
完成すればなんてことはない工事も、着手にあたっては随分苦慮したものである。敷地内の配管敷設経路に始まり、トイレ内部のデザイン、機能性、そして施工業者の決定など、わずかな工事でありながら気を遣うものである。勿論予算面も無視出来ない。様々な条件下でのベターな方法を模索し、構想を練る。便器は決めていた。それはフラッシュバルブ式と呼ばれるもので、水タンクを必要としない水道管直結方式。直結だから、一度流した後も続いて流すことが可能であるだけでなく、貯水漕が除かれるためシンプル、省スペース。この方式はデパートや大きなビルではかなり以前から採用されていたが特殊扱いとされ、一般家庭の普及にはいたっていなかった。その理由は引き込み水圧の問題と水圧弁にあったのだが、昨年ようやく小型バルブの開発に成功、INAXから発売されたのである。この器機のもう一つの特徴は使用水量が少なくて済む事。バキューム機構が備わっていて、最小の水量で流しきる事が可能な節水型。勿論消臭装置、ノンタッチ洗浄、ウオッシュレットタイプの優れもの。
工事に際し、大抵の施主は業者任せが多いと聞いたが、その理由は「専門的で馴染みがない」「業者を信頼」しているからと云う。施主が口を出すのは便器の色、壁や床、化粧台の選択ぐらい。
これに反し私の場合、細部にわたり業者と相談しながらもっともいい状態を模索した。それは短時間とはいえ、一日数回必ず利用する部屋であるからこそ「自分流」心休まる空間に仕上げたかったからに他ならない。一輪挿し以上のいけばなが飾れる空間コーナと、雑品収納スペースをもち、その上でゆったりした雰囲気が感じられる一つの部屋がイメージだった。新築と異なり、改造はどうしても妥協部分が多々出るが、マイナスをプラスに生かせる発想で乗りきることにした。窓の前にはアーチ状に曲げたステンレス板を取り付け、隙間からの幻想的な光を取り入れ、同時に換気機能を併せもたせたり、便器の後ろに収納ボックス、その上に飾り棚を設けるなど、随所に知恵をしぼった。最大のこだわりは配管部分。便器への水道管、電機配線は露出させるのがメーカの基本設置基準なのだが、あのブラブラした線はなんとも目障りなものである。この配管配線部分を一切露出させないのが今回のテーマでもあったので、うまくクリア出来たときはホッとした。
溜おき式から水洗への移行。あの嫌な臭いから解放された清潔な空間への変身は何物にも代え難い近代化の贈り物で、最近はトイレが第二の安息場にもなっているのである。
華道専慶流 西阪慶眞