2003年4月1日発行/専慶流いけばな真樹会主宰・西阪慶眞      
 


花材/朴の木、グズマニア、ホウチャクソウ

ポイント 透き通るような若葉が美しい朴の木は材が柔らかく、版木に使用され、また大きな葉は東北地方では朴葉味噌として食卓をにぎわす。最近は枯木も激減し、表情豊かな素材入手は困難となったが、茎の表情が面白く、若葉の新鮮さと幹の動き、強さを引き出したい。配材の葉は淡く軽快なものを。


花材/キウイ、スズラン

ポイント キウイは曲がりくねった蔓の線を造形的に扱うのが一般的で、作例の小品は2月末に使った素材の再利用。コップに挿しておくと節々から新芽を出し、生命の神秘を目の当たりにさせてくれる。あまりの美しさに心ひかれてミニサイズの小品に生けてみた。背丈30センチたらずのさりげない作品だが、細部にわたる緻密な計算こそが感動をよぶ息づかいとなる。ドイツスズランは日本産と異なり一回り大きい。花と葉のバランスを考えて組み替え、足元をキリッと引き締めることで凛とした姿を捉えている。



 京田辺市・普賢寺の桜と菜の花

花に求める平和の願い

 
 2003年3月20日、世界を巻き込んでついに最悪の道を歩みだした。世界平和を著しく侵す無秩序な脅威への報復とは云え、人類の長い歴史の中で幾度となく繰り返されてきた争いに、人は何を学んで来たのだろう。親の時代と異なり広範囲の自然、子孫にまで暗い影を落とし続ける薬物兵器の使用など、目的達成にはモラル、手段を選ばない今回の判断は大義名分など通用しないのではないだろうか。
 平和を求めて…という建前の下に多くの犠牲となって失われてきたこれまでの尊い命の教訓は今回もまた何処にも見いだせないままでの見切り発車。争によって一番被害を被るのは、いつも罪のない一般市民…。今回も尊い命が無意味に、無雑作に奪われて行くであろうここ数日間の行方。しかし、ここの窓からはそんな物騒な気配はまったく感じさせない梅や沈丁花の香りが日だまりを彷彿とさせる。砂漠の国にも是非届けたい穏やかさだが、日本の立場も危険と背中合わせにあるのは間違いない。世界が手と手を取り平穏に過ごせることを願わずにはいられない。
 卒園、入学の祝いムードの中、湿りがちなメディア。反戦、平和、命の尊厳が否応なしにクローズアップされている。
 年明けから「限られた命の時を生きる」と言った内容のテレビドラマが放映されていたと聞いた。28歳で余命一年と宣告された一人の教師が、最後の時を迎える迄の物語。死への恐怖、絶望、苦しみの中で様々な人との交わりをとおして、自分らしく充実した時を生きる…。淡々と語る主人公の言葉の裏には、いつも死と隣り合わせという緊張があった。
 彼が望んだ自分自身を生きる道、それは生き長らえる単なる時間の長さを求めるのではなく、たとえ残された時間を代償にしても前向きな意味ある時間を過ごすことで心満たされた生きた時間をおくりたいと…。一年しか無い!と捕らえるのか、まだ一年ある!と捕らえるのか。捕らえ方次第で人生は確かに変わる。自分に与えられた一つの命をどう生きて行くか。いつ死が訪れたとしても決して後悔しないように、日々精一杯の時を生きるのが人間であることを強く押し出していた。
 専慶流の花と向かい合う私達は伝統に培われた精神を受け継いでいる。平常心と美の探求、感動する心の多様性は一夜にしてなし得たのではなく、先輩達のいい知れない研鑽の積み重ねがあってこその恩恵であり、暮らしにゆとりと幅を残してくれたのである。駆け込み寺的性格ではなく、いけばなが一人一人の歓び、平安の一助となることを願ってやまない。
                                 華道専慶流 西阪慶眞


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