2004年7月1日発行/専慶流いけばな真樹会主宰・西阪慶眞

専慶流

花材/ブラックベリー、ミニバラ、ゴッドセフィアーナ、バンダ

細い枝先に多くの実をつけるブラックベリーには艶やかな輝きがあり、可愛い。重さで、細い幹は深くたわみ、楽しい表情をかもしだす。こうした素材は一般的ではないが、どのような植物であっても花材と化す。重い素材を軽快に扱う事で可愛さを捉えた作例。器とのバランスを参考に。


 

花材/桧扇、トラノオ、菊

葉の表情を捉えることから、配材は控え目な素材を。左右対称構成では「アンバランスな均衡」に動きを求めます

専慶流

 


滋賀県/烏丸半島にて

死が来るまで生きる

 源氏物語、宇治十帖の舞台にもなった宇治川で、今年も夏の風物詩「鵜飼」が始まった。宇治川では網代の氷魚(ひお)漁が古くから有名だが、『蜻蛉日記』(972年)にはすでに鵜舟の様子を楽しんだ記述がある漁法。舟には松明が設けられ、川霧に浮かぶ情緒たっぷりの光景はゆったりした時間を感じさせる。宇治では昨年から若い女性の鵜匠誕生で後継者問題も解消、観光客の増加が期待されている。
 後継者問題と云えばいけばな界も例外ではない。他の芸能と同じく単に「家」を継ぐだけでなく、伝統芸術としての心や技の継承が不可欠。現在のところ、各家元では子女が育っていて安泰だが、街の教室は何れも黄、赤信号が点滅している。その理由は生徒の減少とともに、プロが育つ土壌が蝕まれている事があげられる。主婦も働く時代になり教室に来る事ができなくなった。若いOLは過酷な労働条件に体力を消耗し、退社後は家庭に急ぎ休息をとる。花に接し、静かな自分だけの時間を確保したい願望はあるものの、エネルギー、心のゆとりを遺失してしまっているのが現状のようである。
 いけばなは植物の知識は無論の事、個々の姿から様々な性格や個性を引き出し、花を素材化させるまでの一連の技量を身につけるまでには最低でも有に10年はかかる。また、花の色や形を組み合わせるデザイン的構成は出来ても「素材を生かす」と云ういけばなの本質とも云える「見極める目」の修得。それには師匠との阿吽の呼吸による生き写しで伝承されていくため膨大な時間がかかる。薔薇の内面に秘める輝き、向日葵の内に潜む重厚な表情、野草の一輪の花に与えられた可憐な姿…。個性を持つ花と花の組み合わせの中に、絶妙なバトルを繰り広げる緊張美「はな世界」。それは内に秘めた蓄積された生け手の技量に比例する。
 また、構成力だけでなく、作品への心地よい緊張感、集中力は欠かせない。生け手の喜怒哀楽は生けた花にそのまま反映されるだけに、心の状況までもが問われる事になる。
 このような事から師匠の後継者存続は一朝一夕にはいかず、ましてや、暗い経済的背景の中、生活確保は極めて困難な教室運営となると、どうしても二の足を踏む若者が多く、継承問題は深刻にならざるをえない。
 先日恩師の大阪芸術大学名誉教授二名と数名の級友が会した。両教授に会うのは35年振りだったが、当時の事を鮮明に覚えていて下さり、とても懐かしい対面であった…ここまでは同窓会などでよくある話だが、今回はちょっと異なっていた。回顧をバネに明日を見据えた夢への会話に花が咲きに咲いた事だった。80歳を越えた師の顔色は輝き、若者には一歩もひけをとらない願望への挑戦、意欲の持続。それは青春そのままを生き抜いている「生」そのものを感じさせるものでした。売れない?自由な創作活動の持続は容易ではないが、級友達もそれぞれの美の世界で活躍しており、定年のない我が人生を謳歌していた。
 後継者問題。それは師の心意気そのものが問われているのかもしれない。

                                  専慶流いけばな真樹会主宰 西阪慶眞


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