●2006年3月1日発行/専慶流いけばな真樹会主宰・西阪慶眞
小さな五弁の花が半球状に集まり、小さな手まりのように見える事からコデマリ(小手毬)と呼ばれています。別名「鈴掛け」とも言われ、下垂する姿をリズムよく捉え、風趣を整えます。ここでは投げ入れ手法でガラス器にいけていますが、足下を引き締めることで軽快感を強調します。
※参考 ガラス器は足元が滑って留まりにくいものです。張り木を格子状に数本配し、その中にもたせかけて留めます。
花材/コデマリ、ゴッドセフィアーナ、チューリップ、フリージヤ
先月に使った「木藤」は、3月にもなると花が膨らみボリュームが出てきます。小さく切り、集合させると趣は一変し、新鮮に生まれ変わります。茎は見せないで花そのものに焦点を合わせ、横位置構成にした木藤の間からアネモネを数本副え、春の色を際立てます。
春の素材はよく日持ちします。この作例のように小さくいけ替えたり、趣向を変えて楽しみたいものです。
花材/キフジ、アネモネ
三寒四温…厳しい寒さが続いた今年の春の訪れは、一足飛びとは行かないようだ。だからこそ、堅い土を押し退けて芽を出す草花、蕾、木の芽の微かな膨らみにふれるとき、全身に嬉しさがこみあげてくる。 悲しいかな「巡る季節は当たり前」と流す人に、そのかすかな動きは気付けない。心に余裕がなければ…、言い訳で逃げるのではなく、与えられた自然の恵みをほんの少しでも日々感じながら生活する事が、心に新鮮な栄養を与え、感謝する気持ち、感動の心を育んでくれるのです。言うまでもなくこの季節は、自然界だけではなく新年度に向けて様々な意味を持つ大きな節目でもあります。私も元旦の気分とはまた違った意味で自身を振り返り、新たなスタートへと臨みます。過ぎた時間を悔いるよりも、ここまでに積み重ねてきた時間が育んでくれた今の自分自身を素直に受け止め、ここからまた一歩前へ進むための時を過ごしたいもの。今、風雪に耐え抜いた樹木に新しい芽生えがあるのは、四季が繰り返されていると言う短絡的現実ではなく、決して留まる事なく様々な環境の変化の中で常に進化し続けてきた証しでもあるのです。 さて、期待されたメダル獲得からは程遠い結果となったトリノ冬期オリンピック。終盤にきてフィギュアで荒川選手が金メダル獲得。日本のみならず世界中が沸き立った。本人の言葉は「無欲の勝利、金を取りに行くのではなく自分の滑りを…」。ここまでの彼女のスケート人生の紆余曲折に改めて触れる必要はないだろう。彼女のみならず全てのアスリートの積み重ねてきた自らの限界を追い求めて来た過酷な時間。メダルの色やその有無を問えるのは他ではない彼等自身であり、傍観者の勝手な思いは余りにも無責任。自らを磨き高めて行けるのは、自らが臨み、学び、妥協を許さず、自身との戦いに挑む継続した姿勢あってこそである。「成長を欲する者は、まず根を確かに下さなくてはならない。上にのびる事のみを欲するな。まず下に食い入ることに努めよ」。 しかしそれは特別な事ではなく、本来私達の誰もが持っているはずの普通の姿勢ではないだろうか。個性を持つ一人の人として他と比べるのではなく、自分らしさを持って、自分にできる最大限の努力を惜しみなく積み重ね続ける…そのような姿勢で生きる事を子供の頃から教えられ学んできた。しかし思い通りにならない現実に、ついつい人と比べ卑下をしたり、無意味な責任転嫁、見栄や欲の前に素直さを見失い、周囲の存在にばかり目を奪われ、自身の目標まで見失って行く事のなんと多い事か。 何かを学び、何かを目指す時、人と比べるのではなく、はたまた、人の言葉に一喜一憂するのではなく今ある自分と真剣に向かい合い、今の自分をこえて行くために真摯な態度で臨まなくてはならない。 あるがままで美しい一本の枝、一輪の花は、心無くして美しくはいけられない。妥協のない積み重ねあってこその美しさに出会える…その事はいけばな人なら誰しも経験済みであろう。
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