新型の豚インフルエンザの感染が国内で拡大するなか、感染者は学生だけでなく、小売り店店員や銀行員にまで広がっている。国際線での大規模な水際作戦も功を奏せず、一気に関西で表面化した格好だが、渡航していない人に感染者が出た事から、すでに「人感染」が進んでいる事を裏付けられており、日常生活にまで影響が出るほどになってしまった。外出時にはマスクの着用を厚生省は薦めているが、購入したくても店頭にはすでに一枚もなく「入荷の予定ありません」の張り紙が。幸い、今回の菌は毒性が比較的弱く、発症した人達は順調に回復されているそうで喜ばしいことだが、これが強い毒性であったらと考えると、水際作戦の大切さを改めて思い知る。とは云うもうのの、大阪、兵庫では三千七百もの学校が休校しているが、アメリカではすでに季節性インフルエンザ並の扱いに切り替え、通常の授業をしているらしく、日本人の心配性、過剰反応性格を問題視する向きがあるのも事実。
人の集まる会合や催しが中止や自粛されるなか、東京上野の国立博物館で開催されている阿修羅展が注目されている。一ヶ月半で50万人の来館数はミロのビーナス展に並ぶほどの勢いで、中でも若い女性の割合が際立ち、東洋の仏像美術へ熱い視線が向けられている。表面的に「格好いい」だけではなく、歴史的背景の他、眼の奥から語られる魔力に魅了されているようで、或いは、天平時代以後の文化を見つめてきた興福寺の寺宝の数々に先祖の声を聴こうとしているのかもしれません。 |
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折しもその時代の世界は今と同じく、天然痘ウイルスが蔓延した時代で、顔や身体に、そして、体内に発疹を来たし、多くの人たちの生命を脅かし、重い障害や後遺症で苦しめていた時代。
奈良・興福寺の宗派は「法相宗」、別名を「唯識宗」と言うそうだ。五感が意識する表層の心、経験や過程で見て来た思いや心は瞬時に忘れるが、奥底では記憶が残り、深層の無意識心が備わっている。そのことから、徳を積めば無意識に浄化する種子が芽生え、その種子がまた後世に相続すると説くのだそうだが、私には仏教の深い知識はない。しかし、若い人の中には仏像の魅力にひかれ、仏教の教えにさかのぼって興味を抱くのだそうだ。とくに、脇役でありながらきめ細やかな細工の阿修羅像を作出した当時の、すべてをおろそかにしない精神に価値観を見いだしているとも云われ、多大な文化、美意識、食文化を育んだ天平時代の背景知識も専門書などで豊富だと云う。
ならば、この際、知識だけでなく肌で感じる実体験を願いたい。いけばなの世界はまさに実体験での血であり、一花一葉に教えられる世界。一輪の表情がかくも豊かであったのか、を実感してもらいたい。理屈ではない、私たちの素晴しい深層意識の美意識に対面するに違いない。
華道専慶流 西阪慶眞
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