●2010年11月1日発行/専慶流いけばな真樹会主宰・西阪慶眞
いけばな専慶流/デルフィニューム
●花材/ 寒桜、旭はらん、菊
●花器/ 手ひねり現代花器

●筋を美しく。

 四季咲き種の仲間である「寒桜」は例年11〜12月頃の長期にわたり次々に花を咲かせる。花は小振り。枝は細く、華奢(きゃしゃ)だが、一枝ひとえだに味がある。撓めは折り撓めで形を作るが、人為的な形ではなく、素直な表情を大切に、清楚なたたずまいを表出させます。作例は又木留め手法で生けています。足元は、菊、ハランの茎を見せない事がポイントです。

ポイント 
 自然な風趣を第一としますが、目障りな枝の交差は避け、美しい茎の線で統一させます。小さな花芽が日ごとに開花するので蕾みの配分を考慮しておく。

水揚げ 菊は水切り。桜は不要。


●花材/ みかん、ユリ、バラ
●花器/ 黒釉壷

ポイント 
 たわわに実るみかん。作例の実はリンゴ大の大きな種で、一個の重量はかなりのもの。幹は随分下垂しているがその湾曲した線を左右に配し、軽快な表情を浮かび上がらせている。花器は底辺が安定した形のものを選びます。

水揚げ バラ、ユリは水切り。

専慶流/カンパニュラ

  曽爾高原のススキ(奈良県)

人間の極限での魅力

 記録的な激暑、酷暑の続いた今夏は、彼岸花の咲かない彼岸を迎えると言う記憶に無い経験をし、10月を迎えても暑さは衰えず、いつもは季節の先取りで一足早く秋の花が並ぶ花屋の店先にもその影響は顕著だった。先人の残した「暑さ寒さも彼岸まで」今年ほどこの言葉を願い待ちわび、そして期待はずれに終わったことは無いだろう。
 うんざりする暑さに心萎え気力低下気味の所に正に「奇跡」が起こった。そう、世界中が見守ったチリ落盤事故の救出作業である。地下700メートルに閉じ込められると言うチリ北部コピアポ郊外のサンホセ鉱山落盤事故が起きたのは8月5日。当初クリスマスの頃に予定されていた地上への救出作業、閉じ込められた人達を思うと、またその家族等を思うと余りの長さに心痛む思いで胸がいっぱいに成った。予定より早く10月13日に始まった救出作業、翌日には33人全員無事救出、特設カプセルが地上に着く度に沸き上がる歓声に、世界の人々が、他国の出来事にも関わらず同調し歓喜していた。地上に生還までの69日間を思うと、奇跡以外の何物でもない。しかし、この救出劇を見ていて,奇跡は起こるのではなく、起こすものだと改めて思った。起こってしまった不幸は確かだが、一人も欠ける事無く、大きな怪我や病気に見舞われる事無く全員無事生還と言う快挙は、閉じ込められた人達、それを救おうと努力し頑張った人達、助かって欲しいと願った多くの人達が起こした団結の末の奇跡に他ならない。

 人の心は脆いもの、日常でもいつもと少し違った環境になるだけでもその心理状態は不安定に成り、時には些細な事で病的に成ってしまう。それが落盤と言う事故で地中に閉じ込められたと言う現実の前に、果たして人間はどれだけ平静で居られるものだろうか。十人十色、仕事仲間とは言え生まれた国も性格も、33人も居れば様々であり、極限状態での思考回路は想像を絶するものであったはず。しかし、救出されカプセルから出て来た一人ひとりの様子を見ても、70日に及ぶ地下生活を強いられた人々の顔、様子には見えなかった。この笑顔の全員生還へと導いたのは、最後に救出された現場監督の存在があったからだという。突然の事故、置かれた環境は彼も同じ極限の中、しかし、彼はパニック状態に陥った人達の心を奮い立たせようと励まし続け、時には喧嘩する仲間をなだめ、生き抜く為のルールを作り…そうした彼への信頼が全員の団結を生んだ。皆が彼への信頼にまとまって行ったから起こりえた奇跡だと言う。彼の非常事態の中での冷静な統率力に高い評価が向けられている。そして奇跡が命繋いだ33人、本人、家族…それぞれに極限状態の中で何を思ったのだろう。
 此処からまたそれぞれの思いに新しい人生の一ページが刻まれて行く事に成る。
 この出来事を通して改めて、人は生きて行くために、望みを持って生きなくては行けない。どうせ無理だから…と諦めてしまえば何も始まらない、奇跡は起こらない。望むからこそ、そこへ向おうとする様々なエネルギーが自然に湧き、国を超えての救出協力にも繋がり、尊い成功を勝ち得たと言う思いに至った。

           華道専慶流 西阪慶眞


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花模様  専慶流