記録的な激暑、酷暑の続いた今夏は、彼岸花の咲かない彼岸を迎えると言う記憶に無い経験をし、10月を迎えても暑さは衰えず、いつもは季節の先取りで一足早く秋の花が並ぶ花屋の店先にもその影響は顕著だった。先人の残した「暑さ寒さも彼岸まで」今年ほどこの言葉を願い待ちわび、そして期待はずれに終わったことは無いだろう。
うんざりする暑さに心萎え気力低下気味の所に正に「奇跡」が起こった。そう、世界中が見守ったチリ落盤事故の救出作業である。地下700メートルに閉じ込められると言うチリ北部コピアポ郊外のサンホセ鉱山落盤事故が起きたのは8月5日。当初クリスマスの頃に予定されていた地上への救出作業、閉じ込められた人達を思うと、またその家族等を思うと余りの長さに心痛む思いで胸がいっぱいに成った。予定より早く10月13日に始まった救出作業、翌日には33人全員無事救出、特設カプセルが地上に着く度に沸き上がる歓声に、世界の人々が、他国の出来事にも関わらず同調し歓喜していた。地上に生還までの69日間を思うと、奇跡以外の何物でもない。しかし、この救出劇を見ていて,奇跡は起こるのではなく、起こすものだと改めて思った。起こってしまった不幸は確かだが、一人も欠ける事無く、大きな怪我や病気に見舞われる事無く全員無事生還と言う快挙は、閉じ込められた人達、それを救おうと努力し頑張った人達、助かって欲しいと願った多くの人達が起こした団結の末の奇跡に他ならない。 |
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人の心は脆いもの、日常でもいつもと少し違った環境になるだけでもその心理状態は不安定に成り、時には些細な事で病的に成ってしまう。それが落盤と言う事故で地中に閉じ込められたと言う現実の前に、果たして人間はどれだけ平静で居られるものだろうか。十人十色、仕事仲間とは言え生まれた国も性格も、33人も居れば様々であり、極限状態での思考回路は想像を絶するものであったはず。しかし、救出されカプセルから出て来た一人ひとりの様子を見ても、70日に及ぶ地下生活を強いられた人々の顔、様子には見えなかった。この笑顔の全員生還へと導いたのは、最後に救出された現場監督の存在があったからだという。突然の事故、置かれた環境は彼も同じ極限の中、しかし、彼はパニック状態に陥った人達の心を奮い立たせようと励まし続け、時には喧嘩する仲間をなだめ、生き抜く為のルールを作り…そうした彼への信頼が全員の団結を生んだ。皆が彼への信頼にまとまって行ったから起こりえた奇跡だと言う。彼の非常事態の中での冷静な統率力に高い評価が向けられている。そして奇跡が命繋いだ33人、本人、家族…それぞれに極限状態の中で何を思ったのだろう。
此処からまたそれぞれの思いに新しい人生の一ページが刻まれて行く事に成る。
この出来事を通して改めて、人は生きて行くために、望みを持って生きなくては行けない。どうせ無理だから…と諦めてしまえば何も始まらない、奇跡は起こらない。望むからこそ、そこへ向おうとする様々なエネルギーが自然に湧き、国を超えての救出協力にも繋がり、尊い成功を勝ち得たと言う思いに至った。
華道専慶流 西阪慶眞
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