和菓子職人、79歳女性。間口の小さな店の前に、早朝からこの女性の煉る餡で作られた菓子を買い求める客の行列ができる。一日の販売個数が限られているため店員でさえも一般客と同様にして並んで買う。特別扱いは許されない。食べたければ条件は皆同じ、並んで手に入れるしかない。この姿勢を崩す事なく店は経営されてきた。この女性「60年アッと言う間だったから、この先60年も煉られる」と、不況どこ吹く風、朗らかな笑顔でさらっと答える。
国産自動車メーカーから名だたるブランド品はもち論のこと、一個人の彫刻までを手掛ける刻印製作所がある。江戸時代に始まるこの手彫り刻印を受け継いだ現職人は「職人はたえず工夫せよ」という先代の教えを日々実践、魂を込めて一つ一つの刻印を仕上げる。当然、魂を込めて作る刻印にはそれに匹敵する道具がノ。道具の製作から整備等全てに魂を入れる。「1年以内30万回以内の使用で使えなくなったら、新品と取り替える」と言うアフターケアの内容が自信をのぞかせている。
ここに紹介した内容は、偶然目にしたテレビ放映の一部であるが、名を聞けば誰もが知る伝統工芸師ばかりではなく、意外に私達の身近な所にも、匠と呼ばれるべき精神、技を磨き続けている人達がいる事に気づかされた。
思い描く領域を目指し、ただひたすらに自分の全てを注ぎ込んでの努力、試行錯誤と自問自答の繰り返し、そこに流れる膨大な時間。
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そんな手探りの飽くなき挑戦から生み出された無二の技が現代へと受け継がれ、そしてなお留まるところを知らない進化の過程にある…。磨かれる技に終わりはない。「匠」と呼ばれる技が人を魅了して止まないのは、そこに人生を掛けたこだわりがあり、作り上げた今この瞬間、自分の持てる力の全てで作り上げたと言う、絶対的な自信とプライドがそこにあるからだろう。
「日本には世界に類を見ない程多くの匠が現存する」これは、日本人ではなく外国の人から憧れを持って寄せられる言葉である。小さな島国日本、長い間海外から隔離されていた環境が、誇るべき独自の文化を形成。しかし今、脈々と受け継がれて来た様々な技が、存亡の危機を迎えている。気が遠くなる程の時間と努力、感性を要す後継者の育成は、現代の高速処理化しようとする気質には残念ながら馴染まない。
「日本には学ぶ事が沢山あるのに、どうして日本人は自らそれを学ぼうとしないのか」外国籍のある大学教授の言葉だが、内に居てその良さに気づかず、大切な物を見失って行く…この流れだけは何としても迂回させたい。
ひととき音色にこだわり、重いトランスと真空管を巧みに組みこんだアンプが風靡していた。目をつむればそこは臨場感あふれる演奏会場にノ、実に優しい音色だ。デジタルとはまったく異なる極上質の空間音を若い人にも是非聴いてもらいたい。
華道専慶流 西阪慶眞
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