清流の近くに生息するというカワセミは、時には青い宝石と呼ばれる程の美しさで人々を魅了する。残念な事に既に絶滅のおそれありの警告、レッドリストの指定を受けているのだが、かつては希少価値の高い特別な鳥ではなく、私達の暮らしと同じ領域、町に公園に…普通に生息していた。しかし、近代化がもたらした生活排水、工場排水等により水が汚れ、この鳥も居場所を追われ人里を離れたのだ。そんなカワセミを捉えた、「カワセミ、そして親に」という映像を先日目にした。
市街化した生活排水の流れる川にカワセミを見つけた…と云う撮影者の言葉に始まった映像は、外敵から守る為、切り立った場所での巣作りから始まる。採餌に適した環境や川の流れ等々、習性なのであろう全てが見事に理に適ったものだ。巣を作り、伴侶を見つけ、雛を守り育て、やがて巣立ちへ…このカワセミの生き様は、そのまま私達人間の基本的?生き方に重なる。
全て満足のゆく環境に生きる事は困難、それでも生きる場所を求め、そこに住まう覚悟があって初めて新たな生活に踏みだす。伴侶を迎えやがて雛がかえる。餌を与えるのは当然、外敵から子を守る為にどんな強敵にも体を張って向かって行く。雛を危険にさらさぬ様巣穴の中で雛の糞を自分の体で受けとめ、何度も川面に体をぶつける事でその汚れを落とす健気さ、常に環境の変化を感じ取り対処する利発さ。
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巣立ちに至ってはこんな現実があった。梅雨、水嵩が増し危険が迫った折一度は難を逃れた雛達。やがて迎えた最後の巣立ちの瞬間!…長期にわたりカメラを向け捉え続けて来た撮影者はそれを映像に残す事は出来なかった。何故なら、豪雨の経験がカワセミを本能で動かしたのだろう。全ての巣立ちにはまだ時間がかかる…そんな予測の段階で、ある日突然カワセミが姿を消した。何があったのか。数日後の豪雨がその巣穴を遥かに越える水嵩に…家族を守る本能の危機回避だった…良かった!と云う安堵の思いで映像を終えていた。
子を守る親の姿、家族を守る為の命がけの行動、無償の愛…これは本来私達人間の姿そのもの。誰もがまず自分の身近な人達の幸せ、安穏を願う。小さな一つの家族愛?は、そのまま関わる多くの人達へと繋がるもの…と願い、信じて疑わなかった。しかし複雑な世界環境に照らせ合わせて捉えた春は巣立ち、別れの季節。成長した姿への感動と喜びだけでは終わりそうにない。「イスラム国」を巡る世界規模の問題に留まらず、身近に起きる様々な悲惨な現実を前に、新たな空間に飛び出す事への不安と恐れは大きくなって行くばかり。それを回避する方法は…私達一人一人が流されるのではなく、自分の意志を強く持ち、自己責任に於いて善悪を見極める総合判断能力を高める事。と同時に、人へ優しさ、労り、思いやりの心をしっかり培っておく事なのでは…、やはり、いつもの思いに到った。
華道専慶流 西阪慶眞
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