時間の流れの速さは年を積み重ねる毎にその速度を増して行く。年長者になればなるほど「そうそう…」と何故か納得の同意を。現実には老若男女、誰にも平等に与えられた1日24時間に変わりはないのだが、感じる速度は大いに異なる。そんな時間の経過の中で今年も1年を振り返る時期を迎えた。さて今年一番記憶に残っている出来事は何だろう。私達は自ら体験した事だけではなく、目や耳に届く多くの情報を人々と共有して来た。
思えば子供の頃は、誕生日のプレゼント、褒められた嬉しさ、怒られた悲しみ等が記憶に残り、多感な思春期には、自身の夢や希望、人との繋がりや交わりに思い悩み…そんな、ある意味自分が中心に居ての周囲との関わりが振り返る要因だった様に思える。当然、社会的な出来事も記憶には残っているが、どちらかと云うと若い頃は良い意味で自己中心的記憶?がメインだったような。だが現実を思うと、個人の人生等に関わる大きな出来事はともかく、私達の意志に関係なく溢れる情報の中に生かされている。情報網の発達が、誰にも平等に…を前提に、世界規模で日々起こる出来事を余す事無く伝え続けている。我が国も含め世界中に起こった悲惨な自然災害、時には人的災害、思想や価値観等の違いから起こる紛争やテロ事件、見果てぬ宇宙への夢はロケットの開発から格段の進歩を遂げ、宇宙ステーションへの往来や生活、宇宙への旅、遠い星の探査…。ノーベル賞の受賞が、科学者の気の遠く成る様な試行錯誤を積み重ねた研究と成果を、オリンピックやスポーツ大会等を通してアスリートのたゆまぬ努力を。近代文明の発達はマイクロチップの人体への埋め込み、クローンに依る生命操作、人工知能の開発に依る人とロボットの共存等々を導き出し…等々、私的な出来事を除いても、届く情報量は膨大、多岐に。そんな中で、私の今年の大切な記憶の一つが…
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「世の中まだまだ捨てたもんじゃない!」そう思わせてくれる出来事に遭遇。つり革を持つ肘同士がぶつからない程度に混んだ車両、突然物が落ちた様な大きな音に多くの乗客が反応。見れば就活中の女学生だろうか、遠目の先に女性が倒れていた。周囲がざわめく中、咄嗟に一人の若者の取った行動に、「なんと、いなせな…」と普段使わない言葉が思い浮かんだ。女性の様子を見ながら、側の女性に介助を指示、周囲の人に車掌への連絡を頼み、携帯で救急車を要請。当然走行中、何線の電車の何両目、次の停車駅と、現在地を車窓の向こうの景色で知らせ…。待機していた駅員に、救急車要請済み等々状況報告をし、電車出発のアナウンスで車内に戻りそのまま何事も無かったかの様に…。その一部始終の流れの素早さ、鮮やかさ。その若者に合わせて動いた周囲の人との連携行動も含めて、人としての労り、優しさ、思いやり等々が傍観する周囲にも伝わり、誰もが、一時も早く救急車に、病院に…の思いになって居たのは、離れた所に居た人々が交わす言葉が何よりの証し。現代の情報社会の冷たさや、時間に追われる慌ただしい日々の中で、偶然、本来あるべき人として当然の行動、姿をその場で共有…まさに今私達が大切にすべき「和」のカタチは美しさでもあった。
平成最後の年末、時代の節目。新たな年が、新たな時代が、人としての思いやりや、優しさで穏やかに積み重ねられて行く事を願いたい。
華道専慶流 西阪慶眞
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