毎年楽しみにしている彼岸花(曼珠沙華)が今年は全国的に開花が悪かったようである。関西では奈良県明日香村周辺が景勝地と知られ、カメラマンの格好の地となっている。段々畑の稲穂の間を縫うようにベルト状に描く深紅のコントラストは絶景。しかしこの地も今まで経験したことのない殺風景な光景となった。残暑の厳しさと夏期の降雨量が原因のようだが、やはり咲くべき花が咲かない季節はどこか寂しい思いがする。
さて、今月の作例は「流しいけ」をとり上げた。「生花」様式の「草の花形」に属する形式で、素材の動きを最優先した派手ないけ方。基本生花の役枝に曲枝を配し、その枝の流れの美しさを強調した見せ方をするもの。例えば真直ぐ上に延びる天に曲のある枝を配し右前に流す。或いは天の裏添えを右前に流したり、人を通常より深く流すなど、枝の流れそのものの美を求めるのです。基本花形からはみ出すのは云うまでもないのですが、その原点は通常の生花にあり、あくまでも「応用」。素材の個性を生かしながら、全体のバランスをとるのです。
具体的には石化部分の奔放な動きをどのように加工するかである。自然の形を誇張する方向で撓め、深く曲げていく。曲を誇張するのだから、曲げは緩やかでなく、大胆であることがポイントなのです。
作例1は「天流し」で、頂上部分が深く曲になっている。この深く曲げた頂点が「天」になっているのです。人の枝先の石化部分を上に向けたのは天とバランスをとる必要があるからなのです。
作例2は「人流し(逆勝手)」といいます。人を通常より長く配していますが、この場合もポイントは「曲」のつけ方で、富士山のような曲を本体近くに見せ、引き締めているのです。石化部分は上部に向け、天と関係を深めます。天添を天と交差させているのは力強さをプラスさせる効果と石化の面白さを引き出したもの。
撓めはききますが、弾力があるため図のように指に力を入れて撓めます。人の前の旭ハランは抱えるように裏向きに配しますが、石化柳の茎が隠れない大きさ、高さを求めます。地は石化柳でもよろしい。その場合ハランは「あしらいに」使います。
華道専慶流 西阪慶眞